別に隠すことでもないのに、背筋がヒヤリとする。
ゆっくりとこちらを向いた心くんと視線が絡み、逸らせなくなる。
彼の片手があたしの頬に伸び、サラリと触れてから首の裏に回ってくる。
嫌な予感、まさか?いやそんなはず?いやいやまさかしないよね?
と、内心焦るあたしの心など関係ないかのように、その腕に引かれた頭は、近距離にいた彼に抗うことすら出来ぬまま──
唇が、触れてしまう。
東先輩が目の前にいるのに、だ。
バサリ、本の落ちる音が響く。
言わずもがな東先輩の持っていた本だろうが……。
「……は?」
東先輩の、思わず漏れてしまったようなその声が耳に入ると同時に、心くんがピクリと反応する。
そっと交わされた優しい口付けから解放されると、彼は眉間に皺を寄せ、東先輩に顔を向ける。
首を解放されていないままだから、姿勢が苦しい。
あと先輩の顔、恥ずかしすぎて見られない……。
「……なんで悟がいる……?」
その様子は、本当に今気付いたようで……いや、本当に今気付いたんだろうけど。
ようやく彼を現実に戻せたというのに、達成感どころか恐怖心に支配される。
東先輩と奏多くんの反応が怖い。
ていうかなんでキスした?
ばか、ばかばかばか!!
心くんのばか!!
絡まれていた腕を外そうとすると、またこちらを向いてくるので警戒する。
冗談じゃない、あたしは人にラブシーンを見られて喜ぶような趣味はない。
「……和歌?」
「腕、どけてください」
「……」
そんな願いも虚しく、もう一度引かれた腕にまた抗えず、今度は額に唇を落とされていた。
こんっっっの!!!
自由人め!!!!!
「どけてくださいって言ってんでしょうが!!」
「あ?」
「人の話聞いてます!?聞こえてます!!?」
「うるせぇな……」
「誰のせいだと!!!」
腹立つ、付き合って早々腹立つ!!



