和歌は、学校をおサボりしてしまうような……決していい子ではなくなってしまったのに。
知歌とは事情が全然違うのに。
罪悪感に飲み込まれそうな私に、母は部屋にあるベッドに腰掛けて、手招かれてあたしも隣に座った。
「理事長先生から電話を頂いたことがあったのよ」
突然の予想外のその話題に、胃の上のあたりがキュッと絞られたような感覚がした。
理事長にはつい先日会った、というかあの時は寝てしまっていて、気付いたら理事長室にいた。
心くんにキスマークを付けられて、眠れなくてそのまま学校へ行った日だ。
心くんに理事長室に運ばれていた。
あの時しか接点がないから、きっとあの後の事だ。
「……ごめんなさい」
「違うの。あの日、和歌ふらふらで学校へ行ったでしょう?でも理事長先生から説明して頂けてね、安心したの」
あの時、あたしはサボっていたのに。
お母さんはそのことを責めない。
「和歌、私たち家族には心配かけないように、いつも通り振舞っているでしょう?」
そうだっただろうか?
あたしにはその意識がない。
けれど、確かに家族の前ではしっかりしないとって、お姉ちゃんなんだからって、気を張っていた部分はある。
知歌に余計な心配をかけないようにするためには、まず家族全体に心配をかけないように……と。
「でもここ1ヶ月、いつもと様子が違っていたのには気付いていたし、知歌には話していたようだから知歌に任せっきりにしてしまっていたけど」
「……」
「たまには、お母さんにも頼ってね」
1ヶ月……そう、奏多くんと、東先輩と、心くんと、出会ったのが1ヶ月前だった。
思い返せば、感情に大きく揺り動かされて、振り回されて、気付けばこの1ヶ月が過ぎていた気がする。
濃ゆかった。
「和歌は、責任感が強いからね、疲れちゃうこともあるわよね」
「……でもお母さん、あたし……全然いい子でいられていない」
俯いて、それまで感じていた罪悪感を告げた。
学校のおさぼり、うっかり緒方先輩の家で寝て帰りが夜中になってしまった日、理事長室に勝手に入っていたことだって。
まぁ、全て心くんが関わっていることだとはいえ……、責任が自分にあることには変わらない。
「……理事長先生の息子さん、このところとても穏やかな表情を見せるようになったそうよ」
母のそう言う明るい声が、薄暗い部屋に響く。
理事長の息子……それは心くんのことだ。
穏やかな表情というのにはどうもピンと来ないけれど。