「奏多」
そこで初めて、ガラの悪い人が口を開いた。
……意外にも、キレイな声。
「……か、わか」
微かに聞こえたその声から、言葉の意味をようやくとらえた。
あたしの名前、呼んでる?
「……なぁに?奏多、くん」
あたしはなるべく優しく聞こえるように、あやすように、そう聞き返した。
すると奏多くんの顔がぱぁっと明るくなって……うお、なんだこの眩しさは!!
満面の笑みを浮かべて、クチパク。
『ありがとう』
……いや、もしかしたらクチパクじゃなかったのかもしれない。
もしかしたら隣の美声の彼には聞こえていたのかもしれない。
あれ、ガラ悪いから美声って認識にいつの間にかチェンジしてた。
まぁそんなことはどうでもよくて。
考えてみよう、なぜあたしはお礼を言われたのか。
いや、もしかしたらお礼を言われたわけじゃないとか?



