「紹介する。今朝犬から逃げていた彼は茅ヶ崎奏多(ちがさきかなた)、1年だ」
「……あぁ、はい。……えっと?」
ここはあたしも自己紹介するべきだろうか?
それとも先輩の紹介を待つべきか?
……数秒沈黙が続いたので、あたしも名乗ることにした。
「藤崎和歌です、1年です」
「知ってる」
イラッ。
なんでセンパイが答えてんですか!
先輩を軽く睨んでいると、小さな小さな声が、どこからかきこえてきた……気が、する。
うん、たぶん聞こえた。
「……か」
か?
でもほら、聞こえた。
さっきより聞こえた。
声の主を探してみると……口を半開きにしてもごもご口をうごかしている奏多くん。
……もしかしなくても、彼らしい。
消え入りそうな声……ってまさかさっきの沈黙って沈黙じゃなくて、空気に限りなく溶け込んでいる声、だったのだろうか?



