10分ほど経った時、菜摘の前に1台の黒い乗用車が停まった。

「菜摘」

中から名前を呼ばれ、下に向けていた視線を上げる。

窓から覗き込む優しい笑顔。

懐かしい声。

愛しい人。



「大ちゃん…」



3ヶ月ぶりの再会だった。

少し伸びた髪が風になびく。

「とりあえず乗れよ」

「…うん」

ドアを開けて助手席に乗り込む。

車内は大ちゃんの香りがした。



ほんのり甘い香りと

セブンスターの匂い。



菜摘がシートベルトをすると、車はゆっくりと走りだした。

「久しぶり。元気してた?」

大ちゃんは菜摘に気遣ってか、普通に接してくれた。

「元気だよ。大ちゃん車買ったんだね」

「会社までちょっと距離あるしね」

『会社』という一言がかっこよく感じる。

大ちゃん、もう社会人だもんね。

「そうだ!仕事は?」

すっかり忘れてた。

まさか仕事中だったんじゃ…。

焦る菜摘をよそに、大ちゃんはのん気に笑う。

「ちょうど終わって、会社戻った時に電話きたんだよ。ナイスタイミング」

大ちゃんの会社は隣町にあって、車で30分以上はかかる。

電話を切ってから、たったの20分できてくれた。

急いできてくれたんだよね?