『山岸』の後ろまで歩み寄る。

大きく深呼吸をして、勇気と声を振り絞った。



「あの…、山岸…さん」



声を振り絞ったはずなのに

菜摘ってこんなに声小さかったっけ。

心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うほどに激しく脈打つ。



「へっ?えっと…ごめん、誰だっけ?なんで名前…」

振り向いた『山岸』はすごく驚いて、大きな目をさらに見開く。

そりゃあ知らない人から急に話し掛けられたら、誰だって驚くよね。

菜摘自身、名前を呼んだことに驚いてる。

積極的な性格がこんなところで役に立つなんて。

「あの、こないだ体験入学で…」

なんて言えばいいかわからない。

本当に混乱していて、頭が真っ白だった。

肩が小さく震える。

「体験入学…」

数秒間、上を向きながら考え込み、勢いよくこっちを向いた。



「ああ、うまかった子だ!よく俺のこと覚えてたね」



……うそ。

女の子なんてたくさんいたのに、覚えててくれた……。