「要、忘れ物ない?」


「ん、だぶん大丈夫」


数年前から手掛けている大型プロジェクトが


いよいよ3日後に公開となる。


郊外の敷地を大量に買い上げて


数年前から少しずつ進めて来たこの企画は


一条のグループ全体の命運が懸かっていると言っても過言じゃないらしい。


だから、最近の要は見たことないほどに険しい表情で


食事をする時でさえ、スマホやタブレットを欠かさない。


それでも、私や斗賀への愛情は目減りすることなく


出先で買ったケーキやゼリーなど


お土産を買って来てくれるほど、家族への配慮は百点満点。


それでも、唯一、ダメだしするとしたら……。


昨夜、深夜に帰宅した要が着ていたスーツを手にして


そっと鼻を近づけると………香水の残り香が。


分かってる、十分理解してるつもりなんだけど。


それでもやっぱり、心は少し軋むのよね。


プロジェクトが大型複合施設だと言っていたから


その仕事に関する取引業者なのは想像が付くけど


香水の香りが移るほど密着しているという事が


妻心、女心に棘が刺さっているようで。