たった一つのお願い



「それに春陽から聞いたが、君の専門は脳外科ではなく、循環器系らしいじゃないか?」



「はい」



「――せめて脳外科なら、春陽の役に立てたものを…」



「お言葉ですが、お父さん」




誰がお父さんだ、と睨まれたが俺には効かない。
こんな睨み、幾度となく経験してきた。




「俺はこの仕事に誇りを持っていますし、むしろ脳外科でなくて好都合だと考えています」



「やはり春陽との時間を少しでも作りたくないのか!?」




この父親は結論を急ぎすぎる。




「違います。そうは言ってません」




だったら何だ、とかなり怒りの表情を露わにされてしまった。
俺はコレ以上気を立てて通行人の注目を浴びないよう、出来るだけ落ち着いた口調で言った。