温泉に浸かり、煩悩を振り払う。
温泉から上がると、春陽はもうすでに待っていた。
「良いお湯だったね」
「そうだな」
初めて来た場所だからどうかと思っていたが、自然もあるし人が混雑しているわけでもない。
それに近い。値段も手頃だ。穴場だった。
本来あまり近くで旅をする事がない。しかも頻度も少ない。
だから、春陽と関わるまで調べもしなかった。
それよりも、だ。
「ドライヤーの乾かし方が甘くないか?」
しっとりとまだ彼女の髪が濡れている。
そのせいでせっかく振り払った煩悩がまたやってきた。
俺の1時間の労力はどうしてくれる。たったの15秒で水の泡じゃないか。
春陽の髪は抗ガン剤の薬を止めたのもあり、手術して1ヶ月の間に少し伸びていた。
「大丈夫だよ。コレぐらいで。短いからすぐ乾くし」
「俺が大丈夫じゃない」
「理央は心配性だなぁ…お医者さんのくせに」
そういう問題じゃない。
春陽は男というものを分かっていない。いや、分かっていたらそれはそれでかなり腹立たしいが、ここまで無自覚だと困る。
(まだ分からないが)外泊で手を出さないというだけでも拍手なのだ。
それなのにこんなに誘うような真似は...............今は物凄く水を浴びたい気分だ。
俺があまりにもしつこいので春陽は折れて、きちんと乾かしてくれた。
...そして焼け石に水程度に俺の煩悩は消えた。


