たった一つのお願い



彼女はいつも俺に無理強いをしない。



病室へ来るよう頼む時も何が何でも絶対来て、とか


キスをして、とか


もう少しここに居て、とか



俺は言われた事がない。…まぁ、キスは俺がしたいから勝手にしているが。



今回もそうだ。


彼女は俺が嫌だと言ったらあっさりと身を引くのだろう。そして陰で一人悲しむんだ。
彼女はそういう性格だ。


俺が困る事や嫌がる事は絶対しないんだ。




「……もう泣くな。俺も大人気なかった。謝る。
だが、俺が春陽から離れられないの知ってるだろう?」



「理央……」



「あー…だから泣くなと言ってるだろう」




俺は彼女の目尻の涙を拭い、目元に一つキスを落とした。




「…もう、結婚しろとは言わないから…せめて指輪だけでもしてくれないか?」




彼女の手を先ほど確認したが、何も付いていない。




「…もしかして捨てたのか?」




なかなか動こうとしない彼女に俺は不安がよぎる。