美穂ちゃんの家へ訪れたのは、模試が終わってからだった。

あまりにも散漫な結果に、両親からは顔をしかめられた。

「あんた、これでN大はちょっと…。

レベル下げるか、もっと頑張るか、どちらかにしなさい。」

家を出る時に母親から言われた言葉が、ウォークマンを無視して頭の中をリピートする。

別にN大じゃなくても構わない。けれど、今更言い出せなかった。

高校を辞めたことだけでも両親への負い目なのに、志望校まで下げたくはなかった。

周りからの目を親が気にしていることは知っていたから。



――家族なんだから…。

家出を重ねる美穂ちゃんにそう説得したことがあったけれど。

あぁそうか……家族だからこそなんだ。

がっかりさせたくないんだ。

遠慮しちゃうんだ、お世話になった分。



美穂ちゃんは留守だった。

その間に部屋を確認して欲しいと言われ、私は美穂ちゃんの部屋へ通された。

想像していたよりはずっと整頓された部屋だったけれど、机の上は雑誌やノートが山積みになっていた。

たくさんの原宿系ファッション誌を私は仕方なく整頓し始める。

私の影響を彼女がモロに受けてしまったことを悟った。

――青文字系って感じじゃなかったじゃん、美穂ちゃん。

心の中で思いながら、雑誌を発行順に集めて壁に立てかけた時だった。

残された雑誌以外の冊子に目が留まった。



「――専門学校?」

声優養成で有名な専門学校のパンフレットが、雑誌に隠されるようにして置かれていた。

私も興味のあるテーマに、思わずパンフレットをめくった。

シャープペンが目印にはさまれていた。

学費についてのページだった。

書き込みがある。

『あと○万円!!』

思わず美穂ちゃんのお母さんを部屋に呼びそうになる程、私は宝物を見つけたような気持ちになっていた。

それは嬉しいだけではなくて、大きなものを見つけてしまった戸惑いも含まれる。

残っている冊子にパンフレットを挟み隠そうとして、私はまた目を大きく見開いた。

残っているものはすべて、難関私立大学のパンフレットだった。

高校中退して、しかも予備校にも通わず、勉強もしていない。

そんな美穂ちゃんが興味を持つはずもないような有名校ばかりだ。

付箋が貼られているページを1つ1つ確認して、息を呑んだ。