美穂ちゃんが使っているMAYBELLINEのマスカラを、薬局で購入した。
アイプチも真似しようと思ったけれど、やめた。
マスカラを1本だけ持ってレジへ行く。
平日から私服で買い物に来ている高校生を見て、パートのおばちゃんは不審そうな顔をしていた。
家に帰ってすぐ、マスカラを試してみた。
今まではマスカラよりもつけまつげの方が好きで、マスカラをする時も100均で買ったダマのできやすいものばかり使っていた。
不慣れだからか、目の端や目の中に黒ずみが付いてしまった。
昔から、不器用なのだ。
美穂ちゃんと違って、簡単には何もできない。
料理も洗濯もお掃除も、最初は何もできなかった。
美穂ちゃんがいなくなっちゃったら、私はマスカラもろくにできないまま大人になるのだろうか。
1人暮らしが不安なのは、私だって一緒だ。
美穂ちゃんと一緒に住みたい。
その気持ちもある。
もう1度、電話をかけてみた。
やはり繋がらなかった。
仕方なく自宅にかけてみた。
すぐに美穂ちゃんのお母さんが出た。
「美穂のこと説得して下さい。
あの子、東京に行く為にバイトたくさん入れたりして、私たちの言うことまったく聞かないんです」
美穂ちゃんのお母さんは、そう言ってから電話を美穂ちゃんに取り次いでくれた。
私に説得なんてどうせ無理だ…、そう思っていたけれど、何故だかやけに緊張した。
電話の向こうの美穂ちゃんはやけに不機嫌だった。
「ケータイ、出てくれなかったから。
家にかけちゃって、迷惑だった?」
私のことなど一切無視するように、美穂ちゃんは言った。
「東京、行くから。」
行けっこないのに、非現実的にも程があるのに、それでも美穂ちゃんなら東京に行ってしまいそうな気がした。
ご両親にちゃんと止めて貰いたかったけれど、彼らはきっと心の底では美穂ちゃんが東京へ行くことを望んでいるのだろう。
もう、止めるのは私くらいだと思った。
「東京の彼氏、良い人じゃないんでしょ?」
電話の向こうは、無言だった。
少しだけ時間をおいて、不機嫌な声が聞こえてきた。
「彼女が、できたんだって。」
じゃあ……と私が言う前に、美穂ちゃんは言った。
「でも、行くから」と。
「私と離れて、寂しくないの?」
思いきって聞いてみた。
美穂ちゃんは少しだけ言葉に迷ったようだったが、やがて「うん」と言った。
「とにかく家を出たい、それだけだから。」
電話はまた一方的に切られてしまった。
何デだよ……。
私は小さく呟いて、ケータイを床に叩きつけた。
誰もいない家に、その音は大きく響いた。
アイプチも真似しようと思ったけれど、やめた。
マスカラを1本だけ持ってレジへ行く。
平日から私服で買い物に来ている高校生を見て、パートのおばちゃんは不審そうな顔をしていた。
家に帰ってすぐ、マスカラを試してみた。
今まではマスカラよりもつけまつげの方が好きで、マスカラをする時も100均で買ったダマのできやすいものばかり使っていた。
不慣れだからか、目の端や目の中に黒ずみが付いてしまった。
昔から、不器用なのだ。
美穂ちゃんと違って、簡単には何もできない。
料理も洗濯もお掃除も、最初は何もできなかった。
美穂ちゃんがいなくなっちゃったら、私はマスカラもろくにできないまま大人になるのだろうか。
1人暮らしが不安なのは、私だって一緒だ。
美穂ちゃんと一緒に住みたい。
その気持ちもある。
もう1度、電話をかけてみた。
やはり繋がらなかった。
仕方なく自宅にかけてみた。
すぐに美穂ちゃんのお母さんが出た。
「美穂のこと説得して下さい。
あの子、東京に行く為にバイトたくさん入れたりして、私たちの言うことまったく聞かないんです」
美穂ちゃんのお母さんは、そう言ってから電話を美穂ちゃんに取り次いでくれた。
私に説得なんてどうせ無理だ…、そう思っていたけれど、何故だかやけに緊張した。
電話の向こうの美穂ちゃんはやけに不機嫌だった。
「ケータイ、出てくれなかったから。
家にかけちゃって、迷惑だった?」
私のことなど一切無視するように、美穂ちゃんは言った。
「東京、行くから。」
行けっこないのに、非現実的にも程があるのに、それでも美穂ちゃんなら東京に行ってしまいそうな気がした。
ご両親にちゃんと止めて貰いたかったけれど、彼らはきっと心の底では美穂ちゃんが東京へ行くことを望んでいるのだろう。
もう、止めるのは私くらいだと思った。
「東京の彼氏、良い人じゃないんでしょ?」
電話の向こうは、無言だった。
少しだけ時間をおいて、不機嫌な声が聞こえてきた。
「彼女が、できたんだって。」
じゃあ……と私が言う前に、美穂ちゃんは言った。
「でも、行くから」と。
「私と離れて、寂しくないの?」
思いきって聞いてみた。
美穂ちゃんは少しだけ言葉に迷ったようだったが、やがて「うん」と言った。
「とにかく家を出たい、それだけだから。」
電話はまた一方的に切られてしまった。
何デだよ……。
私は小さく呟いて、ケータイを床に叩きつけた。
誰もいない家に、その音は大きく響いた。


