「…ありがとうございます」

気付けば女性の腕の中で眠っていたわたしは、少し気恥ずかしさを覚えながら立ち上がりました。

「お礼は要らないよ。……折角だし、もう少しお話していこうか?」

「え…、でも」

「変なお姉さんの戯言だと思って、お願い」

可愛らしく口元で手を合わせ上目遣いをする女性にわたしは根負けして少しだけお話することにしました。

「私、はね。……人の話を聞くのが好きなの」

やはり、何処かぎこちなく喋る彼女はひとつひとつ、言葉を選ぶようにして続けます。

「…追体験、って言うのかな…。他の人の体験なのに、自分もそんな気持ちになれるんだ」

おずおずと告げる姿に、昔からの友人と似たような印象を受けます。
視線に気付いたのか、女性は少し困った顔をして頬を掻きました。

「いきなりこんなこと言われても迷惑だよね…ごめん…」

君……あなたのことを知りたいな、そんな風に言われて今考えていた友人の話をしようとしました。ですが、

「……わたし…のことは…」

話そうと思っていることはあるのに、いざ言葉にしようとすると何も話せません。考えていることは山ほどあって、喉まで出かかっているのに何ひとつ言葉にならないのです。