「…で、俺はこれからどうすれば?」

食器を片付けながら問われ答えに窮(きゅう)した。

「取り敢えず、これを洗い終わるまで待ってくれる?」

残っている食器を全て洗い、さっき食事をしたソファに腰掛ける。奈央も間を置き向かい側に座った。

「…何から聞きたい?」

ついにこの時が来たと思い、目の前の女衒を見詰める。
奈央は何かを考えるように俯き、やがて確認するような声音で告げた。

「…この屋敷は、本当に俺達のために作られたのか…?」


花耶が今日売られることを知っていたあたしは、奈央にもそのことを事前に伝えていた。

奈央自身、自分は周りとは少し(本当は少しではなくかなり)違うと感じていたらしく、誰かに聞こうにも親族は皆知らん顔をするだけだったらしい。


「そうよ。…もう何回も説明したけど、あんたとあたしの祖先は昔、世界の運命を変える大罪を犯したの」

「そ、その「大罪」ってなんのことだ?…俺、ほんとに親族の奴等から嫌われてて、何も知らないんだ」

でしょうね、素っ気なく答えると着物の袂からひとつの箱を取り出す。

「…あんたの首筋、星形のほくろがあるわよね?」

指摘すると奈央は驚いたように首筋に手を当てた。
あたしは箱の中から小さな鏡を出すと奈央に持たせる。

「……ほんとだ…どうして…」

自分でさえ知らなかったことを言われたからだろうか、軽く目を見開いて此方を見詰める。

「…あんたが親族から嫌われていた原因がそれよ。……そのほくろは『大罪人』の子どもの証なの…」

そこまで言うとひとつ溜め息を吐く。そして自分の瞳の色を隠すのに使っていた擬似虹彩を外した。

「……花耶と同じ色でしょう?」

普段は擬似虹彩を付けて隠している瞳は深緑よりも深い翡翠で、花耶も全く同じ瞳をしていた。

「…これはあたしの祖先、『古谷 璃菜』と同じ瞳なの」

奈央の手から鏡を取り、隠し蓋になっている部分を外す。すると擬似虹彩を収納するスペースが出来た。

「あたしが古谷から抹消された理由はこの瞳。…『背徳者』と同じ瞳を持っているからよ」

擬似虹彩じゃない、本当の瞳で奈央を見ると奈央ははっとしたように息を飲んだ。


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