「広い…」
客室は簡素な造りのソファに小さめのテーブルがひとつ置かれた寂しい感じの場処だった。
「…キッチンは向こうにあるみたい。なにか作って来るわね?」
落ち着きなく辺りを見る奈央達に声を掛け、ひとりキッチンへ向かう。
軽めの食事と飲み物を作り客室へ戻ると奈央が近付いて来た。
「大丈夫か杏、運ぶの手伝うか?」
まだキッチン内にある物を運んで貰うように促すと、花耶とふたりで並んでソファに座る。
もう何十年も使われていない客室なのについ最近まで人がいたかのように感じるのは、今までこの屋敷を使っていた者達の呪いなのだろうか。
「わぁ…っ、すごい美味しそう…っ!!」
「そんな大したものじゃないけどね…」
バターナイフを手に取り、ふわふわのパン生地にバターを塗る。
隣で見ていた花耶も真似してバターを塗った。
「美味しい…」
パンを頬張る花耶は小動物のようで、なにか胸の奥が切なくなる感じがした。

