「待たせたわね」

既に表に出ていたふたりに言うと、玄関に鍵を閉める。

この時間はまだ遊女達が眠っているので、開け放しには出来ないのだ。

「…裏に車を止めてあるの、行くわよ」

言って先頭を歩く。すると、まるで雛鳥のようにあとを付いてくる花耶。

「…そんなに慌てなくても、置いて行かないわよ」

少し歩く速さを緩め、花耶と並ぶ。
花耶は首を傾げて此方を見ると、恥ずかしそうに微笑んだ。

その姿はとてもいじらしくて、この小さな子どもを下賤(げせん)な遊郭へと売り飛ばした親に腹が立ってくる。

「…ほら、手を繋いでるから。転ぶんじゃないわよ」

傷だらけの手を握り、少女が転ばないよう歩幅を合わせて歩く。

花耶は、なんとか転ぶまいとして強く強く此方の手を握った。

…握られた手は小さくて、温かくて、心の中に、なにか悲しいものが、溜まっていくようだった。