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面白いことになった。
奈央が連れて来た少女を見た瞬間、あたしはそう確信した。

あたしは普段、奈央が『拾って』きた『売り物』に対しては本人に直接意思を聞くことがあるけど、花耶に対してはそうしなかった。

花耶は、酷く大人しい子どもで、無口で、…あたしの祖先にしかない特徴を持っていたからだ。


あたしは「古谷」という家の生まれで、訳あって古谷家との縁は断絶されている。
女衒の奈央も似た境遇で、あたし達ふたりはひっそりと、知る人しか知らない少女遊郭を営んでいた。


「…あの…杏さんの持つお屋敷って…」

鈴の鳴るような声に我に帰ると、訝しむように此方を見る瞳と目が合う。

「…屋敷なんて、そんな大袈裟なもんじゃないわよ」

素っ気なく言うと、花耶の隣にいる女衒は苦笑に顔を歪めた。

「でも、端から見たら屋敷だろ?」

悪びれなく言う姿に内心溜め息を吐く。

「…確かに、無駄に大きいことは認めるわ。でも、なんのために広く作ってあるのか、わからない訳じゃないでしょう?」

極力冷ややかに言うと、黙って頷く奈央。


奈央達の暮らす『家』は昔、枕業を営む遊郭として使われていた場処で、客と遊女が同棲出来るようにと広めに作られている。


あたしの遊郭で常連が付くようになった遊女は、夜の相手をしないという条件で客と暮らすことを確約し、身の回りのあらゆることを出来るようになるまで、その『家』で生活するのだ。


「奈央、荷物を纏めなさい。…花耶の分はあとで持って行くわ」

花耶は戸惑うように視線を彷徨わせ、奈央を見詰めた。