「…ごめんなさい…」

ふと囁くような声に隣を見ると、少女はこの世の悪意を全て背負ったような顔をしていた。

「…何がかな?俺、君に謝られるようなことした?」

出来るだけ明るく言うと、少女は首を振って立ち止まる。

「…じゃなくて、……おにいさん、おとうさんのほんとの心に気付いたみたいだったから…。……わたしを助けてくれて、ありがと。そして、ごめんなさい」

おどおどした口調は少女の素なのだろう、やや上目遣いに此方を見上げると、ぎこちなく微笑んだ。

「…おとうさん、ほんとは私のことが邪魔だったみたいで…。……おかあさんが出て行ってから、ことあるごとにいじめてきたの」

たどたどしく少女は続けると、そっと俺の手を握る。

「…別に、君を助けた訳じゃないよ。俺は女衒、めぼしい『売り物』があったら買って、元値より高く売る。……それだけだよ」

なんとなく握られた手を見ると、小さい手には細かい傷やささくれが出来ていた。傷は幾重にも重なり、少女が受けてきたことを如実に物語っている。

「でも、君は暫く俺と一緒にいて貰おうかな」

優しい声音で、出来るだけ優しい笑顔を向け、俺は言った。

「…なんか、君のことは放っておけない気がするんだ」