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鷹井さんの案内で入った料亭はとても閑静で、人などいないように思いました。

入口から真っ直ぐに伸びる通路は、所々に小瓶に入った花が飾られていて、この料亭を営む人の性格が伺えます。

「ご免下さい、何方かいらっしゃいませんか?」

鷹井さんは奥に向けて尋ねますが、人の出てくる気配はありません。

「…仕方ない、上がって待ってようか?」

一向に人が来なさそうだからでしょうか、言うが早いか鷹井さんはすたすたと先へ行ってしまいます。

「え?で、でも…」

「大丈夫、此処知り合いの店だから…」

知り合い、そう言う彼の言葉は何処か厳格で、先程までの優しい雰囲気はありませんでした。

「…鷹井さんが言うなら。……お邪魔します…」

料亭に入るのに「お邪魔します」は可笑しいかと思いましたが、一見するとただの家にしか見えない料亭なので、それでもいいかなと思いました。

長く真っ直ぐな廊下を進み、鷹井さんに促されて小さな部屋に入ります。部屋の中は薄暗く、真ん中にあるテーブルと座布団が漸く認識出来るくらいです。



「…やぁ、こんにちは」



不意に、暗闇の中から声がしました。

「驚かないでいいよ。…僕の知り合いだ」

いつの間にか座っていた鷹井さんは、彼の正面にいるであろう人物を睨んでいます。

漸く暗闇に目が慣れ、鷹井さんと同じ方向に顔を向けると、切れ長の瞳の、口元にうっすらと微笑を湛えた人物が、そこにいました。