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「家出したのです」

そう、実際わたしは家出したも同然でした。

お父様の過剰な期待、行きたくもない塾での勉強、その全てに飽き飽きして、わたしは家出したのです。

「…いえで?」

目の前の少女は、よくわからない、という風に首を傾げました。

「はい、家出です。……絶対、誰にも言わないで下さいね?」

念を押し、わたしは服が汚れるのも厭わずに少女の隣に腰掛けます。

「…それにしても、今夜は寒いですね…」

ふるっ、と身震いし隣の少女を見詰めます。

「…うん…。……でも、今はそんなでもないよ?麗菓さんが来る前は、もっと寒かったもん……」

麗奈は、なんでもないように言うと、巻いていた段ボールを私に掛けてくれました。

「ちょっと頼りないけど、でもないよりはマシだから」

「…ありがとう」

段ボールを体に巻き、麗奈と寄り添いながら寒さを凌ぎます。

「…でも、ボクにはちょっと羨ましいかな…」

不意に、麗奈が呟きました。

「ボクね、生まれてすぐこの橋の下に捨てられたんだ。」

まるで、自分の境遇を哀れむことを許さないような、そんな声でした。