麗菓さんは、ボクの知らない世界のお話を沢山してくれました。
「私は、この橋の近くに住んでるんです」
ボクは、この橋の上の世界を少ししか知りません。
以前、言葉を教えてくれたおばあさんがいた頃に、一度だけ出たきりです。
「ふぅん…?」
「麗奈は、橋の外に出たことはあるのですか?」
麗菓さんの問い掛けに頷きで返し、ボクは軽く笑みます。
「…ねぇ、麗菓さんはどうして夜遅くにこんなところにいるの…?」
段々と、寝ぼけ眼だった目が冴えてきました。
気付けば、ボクはそんな問いを口にしていたのです。
「…私がなんで此処にいるか、…ですか…?」
麗菓さんは少しの沈黙のあと、困ったように視線を反らして
「……貴女は他人に口外しなさそうな方なので、教えてあげます」
そこまで言うと、麗菓さんは声を潜め
「…家出したのです」
ボクは、その告白をただぼんやり聞いていました。
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