生まれてすぐ親に捨てられたボクには、名前がありません。
「名前、ないんだ…」
ボクの呟きにその人は、傷ついたような、悲しそうな顔になり
「ごめんなさい、酷いことを聞いてしまいましたね…」
その声の柔らかさに、ボクは恍惚としました。
「…それでは、貴方は男の子ですか?」
段ボールで顔を隠していたからちゃんとわからなかったのでしょう、麗菓さんは小首を傾げて問います。
「あ、ううん。…ボク、女の子だよ…」
昔、言葉を教えてくれたお婆さんが、ウルフヘアを見た時に性別を間違えて、その時の名残で一人称はボクだけど…
とつとつと告げると、麗菓さんは、ぱっと微笑み
「じゃあ、貴女の名前は麗奈にしましょう!」
「……れな…?」
「はい、麗菓の「麗」とおそろいです!」
にこにこと笑って話す麗菓さんに、ボクは目を丸くするしかありませんでした。
「…あ、ありが、と…?」
名前、というものを初めて貰ったからよく実感が湧きません。
「これから貴女は麗奈ですよ?わかりましたね?」
ボクはただ、黙って頷きました。

