あれから1ヶ月が過ぎたけれど、野島君とはまったく話していない。


クラスはまた元通りに戻った。

私は1人のまま、教室の隅から聞こえてくる悪口に気にしていないフリをする。

傘のことについて、結局謝罪はなかった。

担任に事情を聞かれた女子たちがしらばっくれたらしい。

担任はそちらの言い分を信じてしまったのだ。

納得いかない部分もあったけれど、代わりに貰った傘を見れば怒りも多少治まった。




昼休み、華やかな男子のグループが大声で女子の採点をしていた。

発言はしていないけれど、その中に野島君も入っていた。

「伴野とか清水はポイント高いよなぁ。性格良いし話しやすいし。」

男子たちの言葉に、聞き耳を立てていたギャルたちが歓声を上げた。

調子に乗った伴野が、彼らの中へと入って行き、此方を見ながら言った。

「じゃあさ、紫藤さんって何点?」

聞いていた女子たちが笑いだした。

男子たちがニヤニヤしながら此方を見るのが分かった。

「顔は可愛いよな。なんかお嬢様っぽいし。」

「持ち物とか若干オシャレだよな。」

「あ、でも私服がゴスロリっていうのはかなり引くかも。」

私は少しだけ野島君の方を見た。

彼も此方をしっかりと見ていたようで、1ヶ月ぶりに目が合った。

「ぼっちだし少し暗いし、30点くらいじゃね。」

男子の言葉に、更に女子たちが声をあげて笑った。

――人を採点できる顔か、ゴリラ。

心の中で男子たちを毒づきながら、私は悲しい気持ちだった。




「野島は、紫藤さん何点だと思う?」

伴野やその取り巻きに話を振られ、野島君はあからさまに嫌そうな顔をした。

「あー、ダメダメ。こいつ女嫌いだから」

そう軽く言う男子の頭を、野島君は横から叩いた。

それから、伴野たちを仰ぎ、小さな声で言った。

「少なくとも、人のものを盗んだり壊したりするお前らは零点なんじゃねーの。」



泣き出した伴野を慰めながら、男子たちは野島君を睨んでいた。
昔の話をわざわざ持ち出すな…と叱責された野島君は、冷めた表情のまま漫画を読んでいた。