闇夜に真紅の薔薇の咲く

染めた紛いものの金髪とは違う、艶やかな黄金の髪は腰までを覆い、毛先は緩く巻かれており、こちらを見上げる大きな瞳を縁どるのはくるんと可愛らしくカールした長い睫毛。

揺れる瞳は、真紅の薔薇を連想させる紅。滑らかで日焼け知らずの白い肌に、ほんのりと色づいた頬はさぞ触り心地がよいことだろう。

黒地に赤いレースを基調としたドレスを身にまとった彼女の髪の右サイドには紅い薔薇の髪飾りをつけてる。

少し幼さの残る、けれど十分に美人な彼女は、まるで腕の良い人形師が作ったビスクドールのように、全てのパーツが完璧に揃っていた。

思わず彼女の美しさにほう、と感嘆の息をつく朔夜をその大きな瞳に写し、ロザリ―は恐る恐る口を開く。




「さくや、ちゃん……」




鈴の音のような愛らしい声が自分の名を紡ぐと、朔夜はハッと我に返り無遠慮にも彼女をじっと見つめた。

(これが、ロザリ―……)

自分より、2、3歳ほど年下に見えロザリ―は彼女が想像していたよりもずっと愛らしく、清純そうに見えた。

(これが、災厄の姫だなんて……)

もしも、何も知らずに彼女と対面したならば、きっとそんなこと考えもつかなかったことだろう。

純真無垢そうな雰囲気を醸し出す彼女は、その美しい紅の瞳を揺らすと、突然――泣きだした。




「えっ!? ちょっ、ロザリ―!?」

「こんな、こんな愛らしい人に、私は。私は……っ」



顔を覆うと、何かに抗うようにロザリ―は激しく首を振る。

絹のように滑らかな髪が宙に踊り、ともすれば朔夜の顔面に直撃しそうになるのを何とか顔を逸らして回避する。

女の子の髪は時として武器になる。ポニーテールなんかは特に。

彼女の髪は柔らかそうで別に当たっても痛くなさそうだけれど、念のためだ。避けていて損はないだろう。

朔夜は、華奢な肩を震わせるロザリ―に視線をやり、言葉を探すように視線を宙に彷徨わせた。

一体、どうしたと言うのだろう。心配そうに彼女を見下ろす朔夜が口を開こうとすると、不意に勢いよく顔をあげたロザリ―が彼女の胸へと飛び込んできたことにより、かけようとした言葉が何処かへと飛んで行った。

あまりに勢いよく飛び込んできたため、受け止めきれなかった朔夜はその場に尻持ちをつく。

自分のシャツをギュッと握りしめたまま離さないロザリ―を見下ろしながら、朔夜は目を見開いたまま、ゆっくりと息をはいた。

(び、ビックリしたー)

心臓がバクバクと不自然に鼓動を刻む。

毛穴という毛穴からは冷や汗が吹き出し、ロザリ―の頭の上に置いた手が小刻みに震える。

自分のシャツを握りしめたまま微動だにしない彼女を見下ろすと、ロザリ―はふと顔をあげると、先ほどの頼りない雰囲気とは一変。

どこか毅然とした表情をして朔夜をじっと見上げる。




「――……」




(――……え?)

彼女が何かを言っている。それはどうしてか、とても大事な話しの気がするのに内容が、全く聞きとれない。

何かを一生懸命に語るロザリ―。

その姿が、徐々に徐々に、遠ざかってゆく。




「ロザ……リー……」



彼女の向かって手を伸ばすと、朔夜の異変を感じ取ったのだろう。

ロザリーが何かを懸命に何かを訴える。

けれど、朔夜には、まるで自分の耳が全てを拒絶しているかのように、何も聞こえない。

(嗚呼、寝ちゃ……ダメなのに)

穏やかな眠りが、彼女を包み込む。

寝てはだめ。そう思っているのに、彼女の瞼は意に反してゆっくりと閉じて行く。

ロザリー。重罪人とは思えない、愛らしい姿をした、少女。

彼女は一体、何を言おうとしていたのだろう。

瞼を閉じかけたその時。彼女の声が、微かに聞こえた気がした。




「――……伯爵には、どうか気をつけて!」