ポカンとしている木山君に、立ち止まったままの浅井君が言った。

「俺も、小学生の頃に不良のバイク倒して、それが原因でネチネチと強請られ続けて、去年までずっと弁償する金用意する為に働いてた。
周りの奴らから散々バカにされたし俺がかばったはずの奴まで離れて行っちゃうし、自分だけがどうしようもないクズみたいに思えて辛くて、毎日が嫌だったよ。我慢だって続かなくて、体調も崩した」


井上君が、私たちの後ろから珍しく声を張って言う。

「俺は、そんな浅井のこと小学生の頃からずっと遠くで見てた。どれだけ俺が頼ってほしくても浅井はいつも1人で頑張ろうとして、俺の前で何度も吐いたし泣いたし、そんなもの目の前で見せられてた俺だって同じくらい辛かったよ。友達だと思ってた奴が全然頼ってくれないんだ。自分は何のために浅井の傍にいるんだよって本気で悩んだよ」

私も、つられる。

「小学生の時は親が厳しくて友達と遊ぶ機会なんてなくて勉強ばかりしてて、お陰で頑張って入った私立中学でも人付き合いが上手くできなくていじめられて不登校になったよ。高校に入ってからも何で自分が学力に見合わない高校へ進学しなければいけなかったのか考えただけで辛くて、自分ばかりが不幸に思えて仕方がなかった。もう人生このまま悪い方向にしか進んでいかないんだって思うしかなかった」

梶君が、私の手を掴んだまま木山君を見る。

彼が、今朝見た夢が、今目の前で広げられないようにと、私は心の中で祈った。



「俺は小学校の時、信頼している先生から理不尽な体罰を受けたよ。卒業するまでロクに口も利いて貰えなくて、卒業してからもその時のことを忘れられなかった。地元の中学では同じ部活の奴から何かよく分からないけどいじめられた。殴られ蹴られ、あといろいろ盗まれたしカツアゲも受けたし、見せしめみたいに酷いことも散々された。根性焼きとかああいうのも。挙句、そいつ俺の目の前で死んだんだよ!
朝いつも通りに学校行ったらクラブハウスで首吊って死んででてさ!なんか色々吐いた痕跡はあるし、ズボンには失禁の痕が残ってるし、もう見てるだけでおぇってなった!そいつを助けられなかったこと、自分でも悔やんだし、周りからも散々責められた!
逆に木山、お前に聞くよ。
同級生が自分の目の前で無残に死んだ経験、お前にはあるか?
お前には助けられなかった奴の気持ちが分かるか?」

梶君の言葉に、木山君はフェンスを両手でつかんだ。

そんな彼に向ってめぐちゃんが怒鳴る。

「こんだけ皆が言っているのに、それでも苦しみや痛みがない人生があるって思うんなら!そこから飛び降りてもう1回人生やり直して来い!バカ木山!」