「逃げるなって言っただろ、安藤さん。」
呆れたようにそう言う吾妻君は、走って追いかけて来たせいか息を切らしていた。
私は何も答える気になれず、口を閉ざしたまま階段に座り込んでいた。
どうして自分が責められたのか、分からない。
確かに私のやったことは悪いことかもしれない。
でも、その前に清水がやって来たことの方がずっと陰湿じゃないか。
私はやられたことをそのままやり返しただけじゃないか。
どうして清水は責められずに私ばかり責められなければいけないんだ。
「やっぱり男子は清水みたいな奴の味方なんでしょ。
地味でノリの悪い私のことなんて、都合が悪くなれば見捨てるんでしょ。」
腕を伸ばそうとしてきた吾妻君を私は避けた。
吾妻君はいつかの体育の時みたいに困ったような泣きそうな表情を浮かべていた。
「何で?私悪いことしてないのに。
何で渡辺君にあんなこと言われなきゃいけないの?
私が地味だから?暗いから?友達いないから?」
そう言っているうちに泣きそうになって、慌ててカーディガンで口元を隠した。
吾妻君は何か優しい言葉を掛けてくれる訳でもなく、私と向かい合って困ったように立ちつくしていた。
教室へ鞄をとりに戻ることにした。
このまま早退してしまおうと決めた。
そう吾妻君に伝えると、吾妻君は困ったような表情のまま、「先走り過ぎだよ」と言った。
「渡辺にそう言えば良いじゃないか。
あいつ分かってくれるよ、すごく良い奴だし。
1度くらいで安藤さんのこと嫌ったりしないって。」
吾妻君が必死にフォローをするのを聞きながらウンザリした。
以前渡辺君も、吾妻君のことを「良い奴だから」と言っていた。
この友達独特の信頼関係を、私は体験したことがない。だからこそ、鬱陶しく思えてしまう。
「そんなこと分からないよ。
渡辺君、私のこと怒ってたじゃん。
私が悪いことしてないのに怒ったじゃん。
もう絶対私のこと嫌いになってるよ。」
それだけ言って、私は教室へと戻る。
既に授業は始まっていて、扉を開けると教員が苦い顔をした。
「早く席に着きなさい。欠席扱いにするぞ。」
不快な脅しに眉を顰めながら、「早退するんで結構です」と答えた。
机に向かっていた渡辺君が不機嫌そうな顔で私を振り向いた。
清水は未だに肩を震わせている。
完全に私が悪者になっている。
鞄を持つと、私はまた教室を出た。
丁度階段から戻って来た吾妻君とすれ違ったが、挨拶はしなかった。
靴を履き替えている時に、「安藤さん?」と声を掛けられた。
慌てて振り返ると、昨日の司書さんが立っていた。
「どうしたの?早退?具合悪いの?」
他の教員たちとは違って、司書さんは私を邪険にはしないらしい。
少しだけホッとして、私は首を横へ振った。
「クラスに居辛かったから、早退することにしました。」
私がそう言うと、彼女はもっと心配そうな表情を浮かべた。
「何かあったのなら話聞くけど、図書館来る?」
そう言われ、私は慌てて首を振った。
誰かに弱音を溢したら、このままずっと人に甘えてしまうような気がした。
靴を替えると駆け足で学校を抜けた。
音楽室から聞こえてくる校歌が私を追いかけて来たけれど、それから逃げるようにして一層足を速めた。
学校が終わるくらいの時間に、吾妻君からメールが来た。
「大丈夫?」の一言メール。
数日前だったら確実に無視したはずだけれど、私は渋々「大丈夫」と返信した。
翌日は何となくで登校をした。
教室へは足が向かず、旧校舎の階段に腰を下ろしていた。
また生徒指導が来たら嫌なことを言われるのだろうと重いながらも、私を悪者扱いする教室へ行くのも嫌だった。
吾妻君から「学校ついた?」とメールが来ていた。
「ついた」とだけ返信した。
私が学校へ来ていることは、吾妻君から渡辺君に伝わるのだろうか。
木目の粗い天井を見上げて小さく溜息を溢す。
逃げ続けるしかない。
嫌なことからは逃げる以外に方法がない。
正面から向きあったって、どうせ昨日みたいに失敗するだけなのだから。
呆れたようにそう言う吾妻君は、走って追いかけて来たせいか息を切らしていた。
私は何も答える気になれず、口を閉ざしたまま階段に座り込んでいた。
どうして自分が責められたのか、分からない。
確かに私のやったことは悪いことかもしれない。
でも、その前に清水がやって来たことの方がずっと陰湿じゃないか。
私はやられたことをそのままやり返しただけじゃないか。
どうして清水は責められずに私ばかり責められなければいけないんだ。
「やっぱり男子は清水みたいな奴の味方なんでしょ。
地味でノリの悪い私のことなんて、都合が悪くなれば見捨てるんでしょ。」
腕を伸ばそうとしてきた吾妻君を私は避けた。
吾妻君はいつかの体育の時みたいに困ったような泣きそうな表情を浮かべていた。
「何で?私悪いことしてないのに。
何で渡辺君にあんなこと言われなきゃいけないの?
私が地味だから?暗いから?友達いないから?」
そう言っているうちに泣きそうになって、慌ててカーディガンで口元を隠した。
吾妻君は何か優しい言葉を掛けてくれる訳でもなく、私と向かい合って困ったように立ちつくしていた。
教室へ鞄をとりに戻ることにした。
このまま早退してしまおうと決めた。
そう吾妻君に伝えると、吾妻君は困ったような表情のまま、「先走り過ぎだよ」と言った。
「渡辺にそう言えば良いじゃないか。
あいつ分かってくれるよ、すごく良い奴だし。
1度くらいで安藤さんのこと嫌ったりしないって。」
吾妻君が必死にフォローをするのを聞きながらウンザリした。
以前渡辺君も、吾妻君のことを「良い奴だから」と言っていた。
この友達独特の信頼関係を、私は体験したことがない。だからこそ、鬱陶しく思えてしまう。
「そんなこと分からないよ。
渡辺君、私のこと怒ってたじゃん。
私が悪いことしてないのに怒ったじゃん。
もう絶対私のこと嫌いになってるよ。」
それだけ言って、私は教室へと戻る。
既に授業は始まっていて、扉を開けると教員が苦い顔をした。
「早く席に着きなさい。欠席扱いにするぞ。」
不快な脅しに眉を顰めながら、「早退するんで結構です」と答えた。
机に向かっていた渡辺君が不機嫌そうな顔で私を振り向いた。
清水は未だに肩を震わせている。
完全に私が悪者になっている。
鞄を持つと、私はまた教室を出た。
丁度階段から戻って来た吾妻君とすれ違ったが、挨拶はしなかった。
靴を履き替えている時に、「安藤さん?」と声を掛けられた。
慌てて振り返ると、昨日の司書さんが立っていた。
「どうしたの?早退?具合悪いの?」
他の教員たちとは違って、司書さんは私を邪険にはしないらしい。
少しだけホッとして、私は首を横へ振った。
「クラスに居辛かったから、早退することにしました。」
私がそう言うと、彼女はもっと心配そうな表情を浮かべた。
「何かあったのなら話聞くけど、図書館来る?」
そう言われ、私は慌てて首を振った。
誰かに弱音を溢したら、このままずっと人に甘えてしまうような気がした。
靴を替えると駆け足で学校を抜けた。
音楽室から聞こえてくる校歌が私を追いかけて来たけれど、それから逃げるようにして一層足を速めた。
学校が終わるくらいの時間に、吾妻君からメールが来た。
「大丈夫?」の一言メール。
数日前だったら確実に無視したはずだけれど、私は渋々「大丈夫」と返信した。
翌日は何となくで登校をした。
教室へは足が向かず、旧校舎の階段に腰を下ろしていた。
また生徒指導が来たら嫌なことを言われるのだろうと重いながらも、私を悪者扱いする教室へ行くのも嫌だった。
吾妻君から「学校ついた?」とメールが来ていた。
「ついた」とだけ返信した。
私が学校へ来ていることは、吾妻君から渡辺君に伝わるのだろうか。
木目の粗い天井を見上げて小さく溜息を溢す。
逃げ続けるしかない。
嫌なことからは逃げる以外に方法がない。
正面から向きあったって、どうせ昨日みたいに失敗するだけなのだから。


