綿菓子と唐辛子




「………コウタロウ………?」


「………………!!」



小さく、消えてしまいそうになるほどの声で、俺を呼んでくれた。


ほんとうに、ほんとうに、聞き取れないくらいの声で。




「…うん、俺だよ。姫芽」

「…………」



でも、そのひとことを放った瞬間に、姫芽は、どこに溜め込んでいたんだと言わんばかりの涙を、突然流し始めた。






「…っやだ、いや、いや、いや…!!」

「姫芽ちゃん…!」


「いやだ、こわい、聞きたくない、聞きたくない…!いやだ…!!!!いや!!!!」




何が起こっているのか、分からなかった。


俺の名前を呼んで。俺が返事をして。
「姫芽」って呼んだ、その瞬間に。


こうやって、姫芽は崩れ落ちていった。



女性の看護師さんたちに連れられて、部屋の向こうに連れていかれる。




「…ごめんね本郷くん。姫芽ちゃん、今日はまだ無理みたい」

「…」


看護師さんに、困ったような笑顔でそう言われ、バタンとドアを閉められた。



…この時は、よく分からなかったけれど、姫芽は、監禁されていた3ヶ月の間の恐怖が拭えず、男の人に対して、大きな恐怖心を持っていたようだった。