目の前にあったコーヒーが倒れて。
それを聞いた店員が、飛んでくる。
「…ちょ…っと。やめようぜ、こんなとこで…」
「…っ」
襟を掴んでいる、右手が震えた。
人間、怒りが頂点にくると、こんなにも震えるんだと、初めて感じたほど。
「うるせぇ…。こんなところで殺されないこと、感謝しろよ…」
「………」
…知っている。俺は、知っているんだ。
ヒメから聞いた。真実を。
「…本郷、お前は……!!!」
「姫芽を襲った、男だってか?」
「…っ!」
…なんだ、それ。
目を下に伏せて、本郷は噛み付く感じも見せず、そのまま息をついた。
反抗しない。
俺の、この怒りに触れようともしなかった。
「…そうか。姫芽は、お前にそうやって話してんのか…」
それどころか、弱々しい声で、泣きそうな顔で、少しだけ、笑っていた。
「そうか…。はは、よかった………」
「…は…?どういう、こと…」
「………」
ヒメから聞いていたこと。
それは、「前に付き合っていた人から、無理やり襲われた」ということ。
だから、俺は、それを信じてきた。
信じてきた、のに。
「…姫芽を襲ったのは、俺じゃない」
「…」
「2年前に起きた、全国ニュースになった事件。中学生監禁事件だよ」
「………!!!」
…事実は、もっと、もっと奥深くに、存在していた。



