「…勇哉」
「あ?」
ヒメ、俺は………
「俺、ヒメのこと何も知らないんだよ。すごく、たくさん、深くまで知っているようで、全然…」
「…ナツ」
「教えてって言ったら、ヒメのこと傷つけるって分かってる。嫌なことも思い出させるって分かってる。けど…」
けど、どうしても俺は、知りたいと思ってしまうんだ。
君の、その裏側を、見てみたいって。
「なんか、分かんなくなった。知らないことが、聞かないことがしあわせなのか。それとも、知って行くことで、しあわせにできるのか」
「…」
「何も、わからなくなってきた…」
ふれられたことは、別に構わない。
それによって、ヒメに対する想いが変わるわけでもないのだから。
でも、ただ、俺が知らないヒメを、知っている人がいること。
俺が知らないヒメが、存在しているということ。
それによって、もしかしたら俺がまた傷つけてしまうのではないかということ。
「…情けないなあ、女々しいな、俺は」
自分が、こんなにコドモだとは、思っていなかった。



