ふわりと浮いている浮き輪から、まだ怯えるように伸びている腕。
俺の目線と同じ場所にあるそれを見ると、この間ヒメが隠した痕が少しだけ見えていた。
…ほんとに、円状に痕が残ってんな。
これが何なのかは、ヒメは教えてくれない。
聞けば、案外あっさりと教えてくれるのかもしれないけど、何かの理由がないとつかないであろうその痕について、問いただす勇気はなかった。
「…ナツ?」
「…!」
左耳から入ったヒメの声で我に帰った。
「あ、あぁ…ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫?暑いもんね。何か飲みに行く?」
「ん…、そうするか」
俺は、どうしたいんだろう。
ヒメが、男みたいな言葉遣いを使ったりする理由は、もう聞いたはず。
そして、もうヒメは俺の彼女だ。
…それ以外には、なにも不満はないはずなのに。



