「ほら、力抜けって。そんなに暴れると落ちるぞ」
「…っ」
優しく声をかければ、少しずつ力が抜けて行く華奢な身体。それを確認しただけでも、嬉しい気持ちがたくさん溢れて来る。
俺は、静かになったヒメと、ヒメを支えている浮き輪を押して泳いだ。
「…ナツ、」
「んー?」
俺より上に目線があるヒメ。いつもはこんな高さで見つめあったりしないから、なんだか変に緊張した。
「…そんなに、見るな。恥ずかしい」
「…」
耳まで赤くなっていく姿を見て、なんだか胸のあたりがザワザワとしてくる。
…どうして、こんなに。
口は悪いし、女の子の使う言葉を極力避けているヒメ。
それなのに、どうしてこんなにも、女の子らしく見えてしまうのだろうか。
…俺が、ヒメのことを好きだから?
本当にそれだけなのか、時々疑わしくなる。
「…ナツ」
「んー?」
「聞いてるの?」
「ん、聞いてるよ」
…しあわせ、だなあ。



