お腹を抱えてうずくまった私を先輩は呆れたように見てからベットまで運んでくれた。
俗に言う、お姫様だっこ。
どーせならもっとロマンチックな状況で体験したかった。
先輩の肩にもたれかかっていた時に、意外と先輩は肩幅広いことを発見した。
とん、とん、と衝撃を少なくするためかゆっくり歩いてくれている。
一定のリズムと先輩の体温が心地よくて、つい眠りそうになった。

「おい、寝んな。俺薬ある場所知らねーんだから。」

「………うぃ。」

「酔っ払いみてーな返事だな。」

ぼふっと背中全体に柔らかい衝撃。
ベットに降ろされたようだ。

「おい、薬どこあんだ。」

「ありませんよ。」

「………お前今までどーやって風邪治してたんだ。」

「気合です。」

あほか、と言う先輩の声がくぐもって聞こえる。
あまりのお腹の痛さに感覚が鈍ったのだろうか。

「先輩、なんで来たんですか?」

少しだけ、期待していた。
一緒に帰れなかったことを謝りに来た、とか。
なんとなく、でもいいから。


「ケーキ。」

「…………はい?」

「ケーキ買ってきたから。」

ケーキ、あぁ、ケーキ、そうですか。
え、で、なんでケーキ買ったら私の所に来るんですか。

「駅前に出来ただろ、新しいケーキ屋。すっげー人気で並ばなきゃ手に入らないやつ。」

「あー、確かにありましたねそんなとこ。」

要領を得ない会話についていくのに必死でいつの間にかお腹の痛みはあまり気にならなくなっていた。

「二時間並んでようやく。ディズニーランドのアトラクション待ち以上に並んだぞ俺。」

「はぁ。お疲れ様です。」