「無表情だと思ってたのにたまに笑うとことか、よく分からんとこで怒るとことか、不思議と愛着が湧いてきてな。」
執着するつもりなんかなかったのに、いつの間にかそのめんどくささにどハマりしてる自分に、気づきたくなかった。
恥ずかしかった。
ふ、と笑みがこぼれた。
「先輩、失礼ですね。」
「わりぃ。」
ゆっくりと、先輩は身体を引き離す。
少し屈んで私の目線にあわせてくれる。
フワフワの先輩の前髪の間から覗く垂れ目気味の目。
「俺は、まだ手放したくないから。」
真っ赤になっているであろう私の顔が恥ずかしくて、俯いた。
先輩って我儘ですね、なんて軽口を言う余裕もなかった。
今回の件でよくわかった、私って結構甘い。
こんなのに絆されて、先輩を受け入れちゃうくらい甘い。
今の世の中には携帯という便利機器があるんだから引っ越したって大丈夫だって主張するくらい甘い考えの先輩とはちょうどいいかもしれない。
遠距離恋愛っていうのも、いいものかもしれない。