「ただいま~」



10階建てのよくある分譲団地。どの家も同じ青い扉が並び、その中の一つに鍵を差し込む。


家から暗い顔で出てきたお母さんの顔を見て……私もそこまでバカじゃない。現実に気付く。



知ってるんだね?



……きっと全部。



お母さんの顔に生気は無い。



「妊娠してるって本当なの?」



どうしたらいいのか分からない、とまるで世界が終わってしまうかのように焦るお母さんに私は笑った。



「うん。本当だよ」



何でみんな悲しそうな顔をするの?



どうして最初の言葉がおめでとうじゃないの?



いいの。



私とケンが決める事だから。



自室に籠った私の耳に、なにやら相談する声が聞こえている。



お母さんは、一人でこの現実を受け止められず……どうやら担任の太田と話しているらしい……。



言いたい事はたくさんあったけれど、妊娠発覚、ケンの帰宅、取り次いで貰えない事実、そして悲しそうな親の顔。



それら全てを一度忘れるように、布団を深く被り眠りについた。