子供を諭すように、舞い降りる呪文。



「結婚しよ?それで、東京はおふくろが元気になったら必ず行こう!だから、今は待ってほしい」



そんな時にも、私の脳裏に浮かんだのはケンだった。



いつか……結婚しようね。



果たされなかったあの約束。



それを、アツシは叶えようとしてくれている。



自分の寂しさや弱さから、ただ相手を縛りつけようと発した言葉だったなんて……無知な私が気付くはずも無く。



チェックに入る前は敏腕な営業マンだった、というアツシの巧みな言葉遣いの全てを私は信じた。



たとえ、この時にアツシが元営業マンだって知っていたとしても、私を愛してくれるその瞳には逆らえなかった……かもしれない。



掴みかけた小さな夢。



私に降り注いだ大きな愛情。



どっちを取るかなんて……そんな事。



考えなくても決まってた。