旅立つ前に、こんな私でも一応報告する場所があって扉を開ける。



お客さんとのアフターにも、一人で飲むにも重宝しているチェックという静かなお店。



「いらっしゃい、あやちゃん」



広々とした店内の半分を埋める、ピアノ型のカウンター。その向こうにいるのは川口と言う店長。



私が、一瞬だけ通ってみた通信制高校の先輩でもある。



この人とは、体の関係は……無い。



ケンを忘れる為、思い出さない為の大切な時間を埋める場所。



「明日からね、免許取りに行くから……しばらく来れないかも」



基本的に満ちる事のない暇なお店だから、報告しておかないと……遠くにいるのに、期待されても困ってしまうから。



そんな唐突な私の姿に、寂しいなぁ……と軽く溜め息を吐きつつも後押ししてくれる。



「頑張ってな」



うん、頑張るよ。



免許を取ってケンに逢いに行く。



まだこれからだよ。



来てくれなかった理由を聞くまでは……終われないから。