早朝…、5時半。

私は部屋を出ると、軋む階段を…ゆっくりと足を忍ばせて。慎重に…下りていく。


キッチン、それから…居間に誰もいないことを確認して。

廊下をつたって…、縁側へと向かった。



ここは…おばあちゃんが居た場所。

毎日、毎朝――…彼女はここで。


庭の草木を眺めるのが……好きだった。


南向きのここは、とっても陽当たりが良くて…

春には、よく布団が干され、ぽかぽかになったソレに顔を埋めては…

お日様の匂いと、温もりに…癒された。


夏には、風がよく吹き向けて……。
風鈴の音と、キンキンに冷えた…スイカと。
暑くて死にそうな日も、涼を運んで来る…特別な場所だった。

窓を開けば…空一面に広がる、秋茜に。

二人で作った雪だるまが…どうしているだろうって、ガラス越しに見るのも…楽しかった。



ここにこれば、おばあちゃんに…会える。
おばあちゃんの笑顔が…待っている。

おばあちゃんと、私を…繋ぐ場所。

「………。いつぶりだろう……。」

窓を開いたそこに、足だけぶらりと…垂らして。腰を…掛ける。


おばあちゃんが最期にいた、悲しい思い出の…場所。



襖の向こう側の座敷から……


『ボーン…』とひとつ、5時『半』を知らせる音が…聴こえてきた。



「………。……時計…遅れてるんだな…。」

それとも。
私の部屋の時計が…早いのか?

10分ほどの…タイムラグ。




ここにあるのは…、おばあちゃんがお嫁入りしたときに買った、古い木製の柱時計。

振り子つきのそれは……夜見ると、お化けのようにも見えて。

体の真髄に響いてくるような音が…とても怖かった、という記憶がある。

おばあちゃんが亡くなって、このお座敷に人を招き入れることは…全くと言っていいほど、なくなった。

家の人が忙しくなれば…、それも、そう。

人が来なくなれば…、
ここに寄る理由も、ほとんど…なくて。

仏壇に手を合わせる時くらいしか…来なくなった。


希薄な…人間関係。

縁遠い…部屋。



私は…その部屋へと、足を踏み入れて。

仏壇へと…線香をあげた。