店の内からは雨の音は聞こえない。 その代わりに、聞こえるか聞こえないほどの音量で、異国のジャズが流れている。 雨は、ただ何本もの透明な線を描いて、男の視界を斜めに過ぎっていくだけだった。 男は買ったばかりの文庫本を取り出し、テーブルの上に置いた。 だが、手に取るものの、読む気にはなれなかったらしい。 すぐにテーブルの上に戻した。