真君は、呆れた表情で兄ちゃんを引きずって行った。
「・・・・・まぁ、頑張って。」
修平君の言葉にキュンとしながらも頑張れそうな
気がしてバイト1週間ほど経った頃の日だった。
学校が始まる頃にはもういいよと言われていて、
客足も少しずつ減り始めていた。
受付でいつも通り座って客入りが入るのをストーブ
の前で温まりながらぬくぬくとしていた。
「巫女さん下さ~い」
黒ずくめの変人が毎日のようにそう言って通うの
さえなければ平穏なバイト先だ。
「あんた、また来たの?」
サユが明らかにうんざりしながらしっしと追っ払う。
「巫女さん、今日も可愛いっすね。」
「あんたにやらないわよ。とっとと帰りなさい。」
何故か、黒髪のせいかコスプレマニアの人に
こうやって求愛されるのを初めて知った。
黒ずくめと言っても黒いライダースジャケットに
細身のスキニーパンツに黒いブーツに手を突っこんで
顔は美形ではあるこの人だけは飽きもせずに毎度来る。
最初に会った時は、お守りを買ってその時手を
ギュッと握られて焦った。
サユがすぐに警察呼ぶわよこの変態と追っ払って
くれなきゃある意味恐怖の体験でそれからも懲りずに
毎日会いに来てくれるらしい。
「今日こそ、口説き倒そうと思ってたんで譲って下さいよ。」
「そういうわけには行かないのよ。」
「いいじゃないっすか。」
「嫌そうなこの子の顔見なさいよ。」
「無表情で今日もクールビューティで可愛い。」
褒めちぎられることがないばかりに恥ずかしくなってくる。
も、もしかしたら、あたしは押しに弱い母さんの影響を
受け継いできてしまったのかと思いながら下を向く。
「俺、本気なんで巫女さんマジで1回デートして下さい。」
「わわっ!」
「ちょっと、あんたね!」
「ダーメなのよ。今日、巫女ちゃんは俺たちとデート
する約束なわけでね~」
ガバッと顔を上げると手をヒラヒラ振る伊織君と
他の6人が驚愕の視線を向けていた。
そんなバナナの状況がやってきたのだ。

