伊織君父がダーッと涙を流した。

「えっ!?あわわっ、は、ハンカチをどうぞ!」

慌ててポケットからハンカチを取り出すと、

手をギュッと掴まれて前のめりになった。

「俺、生まれてこの方こんなに純粋でいい子に

会ったことがなくて感動してる。」

「は、はい?」

「こういう世の中だとさ、保身の為とか汚いヤツが

多いだろ?日和ちゃんは綺麗な心を持った子なんだね。」

「そんな綺麗とか言われても・・・照れませんからね!」

※照れているが素直にはなれない性格なのです。

「照れてんじゃねぇーかよ。」

「何を言うか!あたしが照れるなどレアなんだからな!!」

「認めねぇのな!」

慶詩の馬鹿者!照れてる顔を見られたら恥ずかしいじゃないか!

※ポーカーフェイスなので誰も照れてるとは思ってない。

「でも、感動して涙を流せるなんて羨ましいです。」

伊織君父はきょとんとした顔をしながらハンカチを受け取り

頬に流れた涙を拭った。

「あ、その変な意味ではなくて、感動して涙を流した

経験がそのお恥ずかしい話ではありますが経験がないのです。」

映画を見たり卒業式をしたり感動する場面でも、

このポーカーフェイスに悩まされる。

卒業式の日は目薬をさして紛らわすなど努力の結晶だ。

心がない人間だと思われるのが何となく避けたかった。

「あたしは冷たい人間なのかもしれません。」

普通の人が出来ることがあたしには出来ないのだ。

「冷たい子だったら、笑ったりしないと思うよ。

ただ、日和ちゃんは慣れてるだけで気付いてない

内に少しずつ変化してるはずだ。こいつらはきっと

それを知ってる。焦る必要なんて何一つない。」

稜さんが湯呑をそっとテーブルに戻した。

そうだったらいいなって願望みたいなものを持ってる。

「ヒヨリンはたまに笑ってくれるよ!」

ナル君が隣で満面の笑みを浮かべて言う。

「まぁ、多少笑うんじゃねぇか?」

ぶっきらぼうな慶詩の言葉にこっちが照れくさくなる。

「京並に貴重な価値ではあるだろ!」

そんな、京様と同じ類にしちゃう!?

ユウヤ、フォローが雑すぎるよ。