「間に合ったってどういうこと?」

机が微かに視界の端に写る。

「・・・ねぇ、ちぃ君今の何だったんだ?

どうして、机落ちてきて人の手が・・・」

地面に転がった時の衝撃で背中がジワジワ痛い。

「・・・・ちぃ君?」

ほのかに香る柑橘系の匂いが鼻をかすめる。

「・・・・どうして、急いでたの?」

オレンジ色の髪がふわふわと気持ちよさそうに揺れる。

「・・・・いつ・・までそうしてる・・の?」

涙で視界がぼやけて青い空が歪んで見える。

それは、どこか狂気じみてた。

世界の終わりが来るならこんなふうに歪んで、

いびつな形に変化を遂げるのかもしれないと。

「・・・・ちぃ君、聞こえ・・てる?」

そっと顔を動かすと目をつぶったちぃ君が

視界いっぱいに居て何寝てるのよって言おうと思った。

こんなところで寝て冗談通じないなって言ってやる気で、

「・・・・・血が」

流れる血液を見てフラッシュバックした。

言葉にならない恐怖で震え上がる。

「・・・・・ちぃ君、お願いだから・・・・」

こんなことってないよ。

ポツリと地面に涙が伝ってシミを作った。

雨なんて降ってないのに可笑しいな。

「・・・・・ちぃ君」

頭から流れる血液にそっと触れようとして止めた。

これは夢なんかじゃない。

妄想なんかでもなくて覆いかぶさるちぃ君の手が

少しずつ緩んでいくことが現実で。

今になって思い知ることがあった。

よくよく考えてみれば、いつも確かにあたしは守って

もらっていたんだと思う。

最初は、尻餅つきそうになった時に座布団代わりに

なって手を怪我してあたしを守ってくれた。

次は、桑田さんの事件で危ない目にあった時、

最後にあたしを見つけ出してもう大丈夫だって言ってくれた。

それから、まだたくさんある。

雷からもあたしが怖いって言って傍に居てくれた。