強く意気込んでここへ来て良かったと思った。

この次に会った時までにはあんたの素性調べといて

やるよぐらいに思って男の横を通り過ぎようとした。

横に肩を並べるときにそっと囁くように新たな問題

を残して歩き出す足音にハッとした。



“次は、婚約してもらいますよ”


聞き間違いじゃないならばそう言ったはずだ。

こんにゃくになってくださいとは言ってないと思われる。

「婚約するつもりないわ。」

「まぁ、焦ってするものじゃないと思いますよ。

ただ、会長が約束を取り付けた婚約者がお嬢様には

居るんですよ。自分に意志があると思わないで下さいね。」

「あたしにだって選ぶ権利はあるわ。」

ふざけるなと叫ぶのを押さえた。

「そうですね、ただ今日のパーティーの来場者を含め、

お嬢様には婚約者が居るという事実をお忘れなきよう。」

婚約破棄だ!そんな簡単に結婚決められてやるもんか。

大体、あたしの計画では20代後半に結婚する予定だから

その婚約者には諦めてもらうしかない!

しかし、誰があたしの婚約者!?

随分と物好きが居るもんだな!

まさか、ものすごいおじいさんだったりしないだろうか!!

それだったら嫌がらせになるんじゃないか。

まぁ、いいや。断ってやる。

もう一度も振り返らずにヒールをカツカツ鳴らして、

その場を立ち去った。

今に見てろ!目にものを見せてやると言っとけば

良かったなと冷静になって思った。

ホテルの中に入って少しすると大和さんを見つけて

小走りに駆け寄った。

「日和様、お食事の方は摂りましたか?」

うおおお!やっぱり、あたしの見る目は間違ってなかった!

大和さん以上に優秀且つ頼りがいのある秘書は居ないね。

世界一と言ってもいいぐらいだ。

「もう少し食べようと思う!あのね、大和さん、

榊原って秘書調べてくれる?会長の第一秘書だ。」

「畏まりました。」

やっぱり、大和さんの笑みの方がいい!

足は疲れてませんかと気遣いしてくれる大和さんに

どんと来いってポーズを取ると笑ってくれた。