眼鏡の奥に光る眼光が鋭いせいか痛い視線。
顔から血の気が引いて駄目だコイツって頭が
危険信号を必死に発令している。
「何で、貴方がここに居るのかしら?」
「見届けに来たんですよ。それから、ご報告にも。」
高いヒールなのにあたしの身長が低いせいか男は
遥かに背が高くて威圧的だ。
「見届ける?貴方、誰の秘書なの?川崎って名前の
秘書は会長も社長の秘書も在籍してないわ。」
全くもって笑えない状況下の中、未だに笑顔を崩さない
目の前の男に気味が悪いと思えて仕方がなかった。
「さすが、頭が良いだけあるなあ。素敵ですよ
“日和お嬢様”お遣いしたかったですよ私が。」
叩いてやろうかと思った。ハリセンでもハエたたきでも
いいからとにかく叩いてぺしゃんこにしてやろうかと思った。
「そちらの言うとおり後継者になったのですからこれ以上
私に関わらないで下さる?」
「あーあ、どこまでもポーカーフェイスで可愛げないですね。」
・・・・・何が目的なのよ!
これであたしとあんたにはもう関係する問題なんてないんだから
さっさと消えてくれってんだよ。
「まだまだここからですよ?まさか、これで終わりだなんて
甘い考え持ってないですよね。」
一々癇に障る言い方してきて何のつもり?
それで、あたしが感情的になるとでも思ってるのかしら!
「まあ、いいですよ。私の主は前にも言いましたが、
会長だけですから覚えて下さると光栄ですよ。」
癪に障るって言ったら伝わるのか!?
絶対、慶詩だったらキレて暴れてたに違いないぞ!
「だから、貴方のな」
「紹介遅れましたが、私は会長の第一秘書兼お世話係を
努めています榊原と申します。」
へっ!?苗字変わったのか!!
昔、川崎とか言ってただろうよ。
結婚でもしたってのか。その手があったとは、
通りで苗字が見当たらないわけだよ。
「そう、よろしく“榊原”さん」
ドレスの裾を持ち上げて片足を少し引いて腰を
軽く下を落とすようにお辞儀をする。
目を細める榊原とかいう男が手を胸に当てて、
お辞儀返しをするのを見てやっと同じ土俵に立てたと思えた。

