―――――ここで、初めて鋭く突き刺さる視線の存在に気付いた。


妄想どころか油断してる場合じゃない。

可笑しいとは思っていたんだ。最初から何か引っかかって、

やっぱりあたしの勘は鋭いと思われる。

みんな馬鹿にするけど、ちゃんと機能してると実証してやった。

ひんやりと冷たい空気が肌を掠めて寒気に目が覚める。

噴水の水音が微かに聞こえる先、噴水を挟んだ奥に

佇むスーツをそつなく着こなした眼鏡の男。

あたしをまっ直ぐ見つめる視線に喉がカラカラ乾く。

何時から見てた?最初から居た?

言葉にならない状況にパニックに陥りそうになる。

たった、1回会っただけでそれも何年も前の話。

それでも、変わらずに薄気味悪い笑みを浮かべる。

完全に作り物の笑みをこちらに向けて嘲笑ってる

かのような態度に心底怒りが込み上げてくる。

フツフツと湧き上がる衝動を押さえ込みながら理性

を取り戻しつつ殴ってやりたいって気持ちが勝る。

いくら、殴りたくてもここで殴るわけにはいかない。

あたしはもうすでに一ノ瀬の後継者になった。

それがどういう立場なのか弁えないとならない。

そして、あの男の思惑を潰すまでは何が何でも

完璧にお嬢様を演じてやるしかない。

「こんばんわ、お久しぶりですね。私のことは

覚えて頂けてるでしょうか?」

湧き上がる闘争心の中背後からぬるっと声を掛けられた。

「ええ、貴方の顔二度も見たくなかったわ。」

振り返り対面するとやっぱり気味が悪い。

笑顔が張り付いてるのに全然目が笑ってない。

馨君はいつも笑みを浮かべてるけど、全く

違うタイプの人だって思う。

馨君の笑みを見ると安心するけど、この人は

不気味でその笑顔の下が黒く染まってるような気がする。

「ははっ、お嬢様にはこれから何度も会うことになると

思うんですけどね、嫌われちゃったかな。」

人気が全くないこの場所を不思議に思った。

いくら、パーティーが終わらないからって

さっきまで人・・・・居なかった?

途端に走る危険センサーがあたしの中で起動し始めた。

この男に隙は絶対に見せてはならない。

揚げ足を取ってくるに違いないんだから敵意を顕にしなきゃだ。