あれだけパンを頬張ったにも関わらずお昼にはお腹が空いてきて、

ぐうっと大合唱していてお化粧をしてくれた女の人がクスリと笑ってた。

何と空気の読めないお腹なんだと思いながらもドレスの準備も

してくれていたので着替えるのに時間は掛からなかった。

ヒラヒラしたドレスの裾にこんなのあたし着てもいいのかと

何度も思ったけど、化粧をして粧し込んだあたしは人形になれる

気さえしてきたわけで普段は絶対にこんな動きづらい格好しない。

無駄に重たいアクセサリーは重量挙げしてんじゃないかと思った

ぐらいで金持ちも苦労をするんだと知った。

化粧ポーチにグロスとか軽い化粧直しが出来る品を詰め込むと拍子に、

一昨日誕生日プレゼントだと受け取ったチューリップ型の鏡もクラッチ

バックに押し込んだ。

そろそろ、時間だと思われる。

やっぱり、兄ちゃんには行く前に言っておこうと思う。

多分、反対するに決まってることだけど、言わないでも

この格好してたら気付くだろうし、気付いてるのに言わないのは

兄ちゃんを傷つけることになりそうだから行く前に言っておこう。

これから先の決意は告げずに後継者になるってことだけでも

伝えられたらいいかなぐらいに思って準備完了して鏡で一応

変なところはないかと確かめた。

今日は鉄仮面のようなあたしで居なければならない。

油断はあたしの足を引っ張ることになる。

部屋の片付けをしておきますと女の人が送り出してくれた。

ご武運をと言われて力強く頷いた。

スリッパの音が気になりつつリビングに向かおうと階段

手前で兄ちゃんが階段から登って出くわした。

今日、仕事は休みだって言ってた。

シフトを休みにしたのはあたしの誕生日だからだと思われる。

「ひーちゃん、兄ちゃんとデートしてくれる気になった!?」

大概ふざけた我が兄で自負している。

しかし、この格好見てもふざけた頭してることにため息

を吐き出してくなった。

「ひーちゃんは、本当に綺麗になってくね。可愛いけど、

そういう格好してると本気で心配だな。」

「兄ちゃん、あのね」

「全世界の生き物という生き物がひーちゃんを好きになっちゃう

かもしれないと思うと家から出せないな。」

「その妄想怖すぎるんだが!」

この脳内何考えてるか分からない我が兄の扱いにはほどほど

苦労してきたが今まさにもっと苦労してる。