「ひーちゃん、今日は行きたいって言ってた

美術館に展示見に行こう?」

朝から兄ちゃんはいつもより早く起きてて、

一緒にラジオ体操をしながらそう提案してきた。

「ごめんね、兄ちゃん今日はもう用事ある。」

「・・・・・そっか」

ここまで来たら、兄ちゃんにも隠し通してやろうかと思ってた。

そんなこと簡単じゃないかとさえ思ってたあたしはここに来て

隠すのが如何に難しいのか思い知った。

「でも、ひーちゃん今日は誕生日だろ?」

「・・・・うん」

「16歳になったんだから我儘言っちゃ駄目だってことはないからな?」

兄ちゃんの横顔はどこか悲しそうで一体全体朝から

なんて顔してるのよと言いたかった。

でも、言えなかったのは兄ちゃんはもしかして

気付いてるのかもしれないと思ってしまったからだ。

その内、大和さんが来てバタバタ慌ただしく準備をしていた。

ドレスはもう来た方がいいのかとか髪とか化粧もしなきゃ

駄目じゃないかとか朝食を食べてる時間は落ち着かなくて

あんまり食べられなかった。

そんな様子を兄ちゃんが気付かないわけもなくて、

にんじんをお皿にいっぱい入れてくる。

仕方なく人にんじんを食べてやるとパンにジャムを

塗ってくれて何が何でもご飯はしっかり食べろと

思う我が兄はありえないほどパンにジャムを塗った。

何枚食べさせる気かと激怒しそうになったぐらいだ。

恐ろしいパンの山に大和さんも無言で手伝ってくれた。

思えば、最初から可笑しいなとは思ってた。

いつもはあたしよりも遅くに起きてくるのに、

今日に限ってあたしよりも早く起きてた。

食べ終わってすぐに前に家に来たことがある、

女の人が来てメイクやら髪やらを綺麗にしてくれた。

挨拶周りがあるからと来賓客のリストを前に

大和さんが持ってきてくれたのをもう一度

一通り確認のため目を通して今日の新聞を片手に

情報を頭の中に叩き込んでいるといつの間にか

昼になっていて鏡を見ると誰って思うぐらい綺麗にしてくれた。

見た目はそんなに悪くない顔で良かった。

化粧をすると多少の誤魔化しが効くらしい。

パールの光るパウダーで肌がキラキラ光る。

唇に塗られたグロスがテカって天ぷらでも

食べたみたいになっててこれじゃ昼飯食べれない

じゃないかと思って落ち込んだ。