嫌だよ、俺こんなの絶対に嫌だ。
「おい、お前何を見てんだ。コイツは男だ。」
誰も居ないはずだった空間を切るように、
響いた声に俯いていた顔をパッと上げた。
「何だ、お前この子のクラスメイトか?」
気味の悪い男が視線を向ける方向には、
いつも馨と遊んでる時に居るヤツが立ってた。
何やってんだよ、早く逃げろよって思っても
喉が何か詰まってるみたいに出ない。
「クラスは違う。」
「じゃあ、お兄さんの邪魔しないでくれないかな。」
「・・・・・・・・何するんだ?」
「君には関係ない子なんだろ?ほっといてくれないか。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ぼーっとする漆黒の瞳が俺を見つめた。
早く、逃げろよ。何で逃げねぇんだよ。
俺とは何の関係でもねぇだろ。
だったら、早く帰れよ。
「・・・・・お前の方が関係ないだろ?」
「はぁ?」
何で、怖くねぇんだよ。自分よりもずっと身長も
体格も大きくて大人なのに。
「・・・・俺は多分関係ある。」
「何言ってんだ、坊や?」
イライラした声を荒げる気味の悪い男が、
俺から手を放した。
「・・・・今はまだ違うかもしれねぇけど、
これから関係するかもしれない。」
そう言った瞬間、イライラした男が手を振り上げた。
怖くなって目を閉じた。
俺は、また誰かを傷付けて・・・・・
「おい、何してるんだ。逃げるぞ。」
目を閉じてた俺の手を引いた。
「な、何するんだよ!」
「アイツ、気味悪いだろ?嫌だったんだろ?」
その手がどうしようもなく温かかった。
冬だってのに何でかよく分かんないけど、
温かくて安心出来て泣いた。
手を引かれながら逃げる夜道で涙が決壊した。
兄貴の手をふと思い出した。
ずっと冷たい手だったのに何故か思い出した。
何が起きたのかもよく分からないわけで、
殴られたんじゃねえのかよとか言いたいことは
たくさん思いつくのに手を引っ張るヤツが
笑みを浮かべてるだけでどうでもよくなった。

