それから、母さんは昼間のパートを探した。

離婚をする時に親父が俺を引き取りたいと

言ったらしいが、虐待のことと母さんに暴力

を振るっていたことが裁判の不利に繋がって

俺も兄貴も母さんと家族で居れた。

不自由な思いはさせたくないから頑張ると意気込んでる

母さんはどんなに忙しくても仕事と家事を両立させてた。

そんなようやく普通の幸せを掴めると思ってた時だった。

中学を卒業した兄貴が突然居なくなった。

母さんはショックで1週間寝込んだ。

それでも、仕事があるからって元気がないのに

無理して笑って仕事に行ってた。

まだ、小学生だった俺にはやっぱり何も出来なかった。

兄貴が何で出て行ったのか分からなくて

俺も元気が出なかった。

学校で苛められることはもうなかったけど、

家でも俺を守る必要はもうなくなったけど、

兄貴って存在が急に居なくなったことで裏切られた気がした。

もう俺の兄貴が嫌だから出て行ったんだと思った。

学校から帰ってきて1人で居る時間は大嫌いだった。

暗くなるのが早い冬の時期は怖かった。

暗いのが怖いのは女の服を親父に着せられた

時を思い出すからトラウマになった。

兄貴が居る時はいつも陽気に大声で歌ってたから

気が紛れて怖くなんかなかった。

1人で居るってのが慣れなかった。

怖くて誰も居なくなって世界は俺一人に

なっちまったのかもしれないって何度も思って

泣いた日もあった。

帰ってくると母さんはいつももっと早く帰って

来れるようにお仕事の人に頼んでみるねと言ってた。

俺、男のくせに情けないって嫌になった。

本当は母さんに心配要らねぇって言わなきゃ行けなかった。

無理して内職毎晩やってた母さんはすぐに体を壊した。

元々、体が弱い母さんだった。

だから、無理のしすぎで体が限界を越したんだ。

2、3日もすれば治るからと医者が言ってたのを

母さんが眠ってる病室で聞いた。

少しの間だけ俺に試練が与えられた。