Hurly-Burly 5 【完】


ホストみたいな男があたしの肩に手を置こうと

したその一瞬の出来事だった。

「その子に気安く触るな。」

静かに吐いた言葉は背筋が凍るような低いものだった。

目の前の人が発したんだと思うけど、信じられなかった。

「あ?俺の客だ、引っ込んでろよ。」

ホストらしき男が眉間にシワを寄せながら詰め寄る。

でも、今の彼には何ら問題はないようだった。

「一度言ったことも分かんねような馬鹿にその子は

手に負えねえって言ったら分かるか?」

とにかく、あたしの身の危険を悟った。

雑踏の中でもその声がやけにクリアに聞こえた。

それにビビったのはあたしだけじゃなかったようだ。

「ッチ」

舌打ちしながら唾を地面に吐き出して人を掻き分けて

逃げていく男は微かに動揺してるようで人に何度もぶつかってた。

「・・・・日和ちゃん、1から説明してくれるよね?」

神様はあたしを見放したようだ。

あたしの目の前には極上に輝くブラックスマイルを

浮かべている馨君が立っていた。

あ、あの、優しかった馨君を返してくれと思った瞬間だった。

「こ、これには長い長い根気ある説明が必要になりそうなんだが、

その・・・えっと・・・・ですね。」

固まったままのあたしにゆっくりと馨君が近づいて、

ポンっと頭の上に降りた手に馨君を見上げた。

「何もされてない?」

「は、はい!もちろんだ!」

小さくため息を吐きながら「そっか」と納得した

馨君が頭を撫でてくれたお陰か分からないけど、

あたしの自然災害は食い止められた。

不安だった気持ちが一気に晴れた。

それは、一瞬のことだったけど今はいつもと

変わらない馨君に戻ってるからだと思う。

確かに、一瞬馨君じゃないヤツが背後から

チラついたように見えたのはあたしの妄想が

暴走したかもしれないと思いたい。

「とりあえず、帰ろうか。お兄さん心配してたよ。」

「えっ!?」

「『ひーちゃんが居ないんだよ!大至急捜索願いを出そうと思う!!』」

馨君がケータイのボタンを押すと大げさな兄ちゃんの宣言が

再生されて心底兄ちゃんを恨んだ。