もう二度と知らない土地で無防備なことしません。
集中して周りが見えなくなるのは家の中で収めときます。
だから、・・・・見逃してえええっ!!
折角、距離が縮まった馨君に背を向けるように
手首を引きちぎられるぐらいの強さで引っ張られて
引きずられてるみたいになる。
「黙ってついてくりゃ何もしねぇよ。」
「嘘だ!」
タダで帰す気はないって言ってたじゃない!
「マジだ。ただ少し一緒に居てくれりゃいい。」
「えっ!?」
ま、まさか、友達居ないのか?
だから、1人で寂しいってことなのかしら?
「ただな、ここら辺は物騒なとこでよ。そこら中、
やべー奴らばっかだったりすんだよな。襲われたく
なきゃ、俺と居る方が利口だぜ?」
だったら、即刻馨君と一緒に帰るべきだった!
咄嗟にまだ後ろに馨君が居るかもしれないと
思って振り返るも溢れかえる人の中それを
確認することは容易じゃなかった。
「あなたと一緒に居れば安全なのか?」
この人を信じるつもりはさらさらない。
「まぁ、1人で居るよりかは盾になんだろうな。」
「なら、帰してくれる気になったら言って。
あなたを信じてるつもりはないけど、時間の
無駄も持て余したくないから。」
持っていた分厚い辞書みたいな本を持ち上げて、
片手に乗せてまたページを捲る作業を続けた。
「お前、大した女だな。」
それを横目に人の波を縫って移動する男は
行き先も告げずにただ歩き続ける。
「悪いけど、話しかけないでいいとこなの。」
クライマックスまで来てるところだったんだから
そっとして欲しいわ。
それからは集中力によって世界が両断された。
周りの声も喧騒音も何も聞こえない。
むしろ、人が前を歩く男を避けるおかげか
人酔いしなくて済んだことは助かった。
あてもなく歩き続ける男の真意なんて
分からないのに、あたしが焦っても仕方ない。
意外とピンチになると冷静になってくるみたいだ。

